堕ちる夏


  
  
「だから君には、もっと僕のことを見ていてもらいたいんです」


  僕を見つめて、僕のことを考えて
  そして僕に、堕ちていってください


気がつくと、彼の瞳が目の前にある。
その透明感のある瞳に吸い込まれそうだ。
これが彼の言う、堕ちるということなのだろうか。


それはもう、言葉で誘導されているようで。

わたしはもう、堕ちていくことしかできそうもなく。


ぎゅっと手を握り締めて、目を閉じてみる。
しかし、そんなことで逃げられるはずもない。

柔らかな感触。

驚いて息を呑むと、そこから口内を犯される。


透明を感じさせる青い空、濃く積み上げられる白い雲。
うるさいと思っていた蝉の声も今は聞こえない。
耳は閉じることができないというのに、もう聞こえてはこなかった。